記憶の整理

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【論文】爪を噛む癖を心理学的に治すには

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イントロ

人間誰しも治したい癖(反復行動)があるものですが(断定)、その中でかなりポピュラーなものの一つに爪を噛む、ないし食べる、という癖があるのではないでしょうか。

多くは子供のころ(40パーセント程度)、長くても大学生くらいまでには無くなっていく癖ですが、とある論文によると大人でも5%程度の割合で爪を噛む癖がある人がいるようです。

 

これだけ幅広い世代にわたって一定数の人が持つ癖にも関わらず、これといった治療方法は確立されていません。

僕自身、爪を噛む癖が中々抜けず、かれこれ15年以上噛み続けているわけですが、これまで何回もやめようと思い、治療を試みたわけですが、悉く失敗に終わってしまいました。

例えば、爪に苦いマニキュア(マヴァラ・バイターストップ)。爪を噛むこと何とも言えない苦みが口内に広がるため、爪を噛まなくなるという、行動主義心理学の基本であるオペラント条件付けを応用した治療法です。ただ弱化が弱すぎたのか全く効きませんでした。15年も続けているのであの程度では効かなかったのでしょう。

閑話休題

これまで、星の数ほど治療を試みてきたけど上手くいかなかった方に紹介したいのが、1984年に行われたHRT(Habit Reversal Training、習慣反転療法)の実験です。この治療法は1973年にネイサンアズリン等が発表したHRTの論文が元になっています。実験ではその中から効果のありそうな2つのテクニック(元は13種類)を髪を引き抜く癖、爪を噛む癖がある女性の治療に利用ました。

 

治療法

 治療の対象になった17歳の女性は、幼い頃の両親の喧嘩によるストレスが原因で髪を引き抜く癖が発症し、それから14年間、何かストレスを感じると髪を引っ張り続けるようになりました。ただ、人がいる前では髪を引き抜くことは無く、代わりに、爪を噛むことで不安を抑えるようになり、そこから爪を噛む癖が徐々に定着していったようです。彼女自身でこのケーススタディの前に5年間医者に通っていましたが、一向に治る気配はなく、一年間続けた薬の治療もあまり効果がなかったようです。しかし、長年の失敗もここで終わり、この実験では爪を噛む癖、髪を引き抜く癖、その両方ともをやめることに成功しました。(実験前一日平均107.5回あった 髪を引き抜く癖は実験後0.8回に、8.25回あった爪を噛む癖は0回にまで減りました)

 

 この実験で使われたテクニックは

  • Relaxation Training
  • Competing Response Training

の二種類で、結果効いたのが後者のみだったので、こちらについて扱いたいと思います。

やり方は非常にシンプルで、”減らしたい癖と機能的に明らかに違う行動を、その癖の代わりにする”、という物です。例えば、この実験で代替の行動として用いられたのは、「こぶしを握る」という行動で、「爪を噛む」や「髪を引き抜く」といった行動とは明らかに機能的な違いがあります。この実験以外では、「ストレスボールを握る(握力強化のハンドグリップを握る)」行動などが利用されているようです。

これらの代替の行動は減らしたい癖をしてしまった時、ないし、やりそうになった時(やりそうだと気づいた時)に3分間やり続けます。私が探した限りあまり多くの実験が行われているわけではないので、何とも言えませんが、もう少し短くても大丈夫かもしれません。(この実験は3分で行われているため、同じ時間をやることをお勧めします)

この実験では利長期間が3週間、目的の癖をしなくなったところで治療をやめ、その後も再発することは無かったとされていますが、他の実験では前よりも低い回数ではありますが再発したとあるので、習慣が完成するといわれる66日間(10週間程度)続けるといいと思います。

 

爪を噛む癖等の反復習慣がある人は自分も含め何らかの社会的な不利益を被っていると思います(爪を噛む人は自信が他の人に比べて少ない、という実験もあったりします)。その為か、治療を続けるために何らかの報酬(ご褒美)を与え続けなくても、自分の周りの環境や自分自身がいい方向に変化するので、続きやすいそうです。

この論文はケーススタディ(サンプルが1人)のため、科学的な観点から見ると一般化するには不十分な実験結果ではありますが、これと言ってお金がかかる訳でもなく、苦行を強いるわけでもないので、一度試してみてはいかがでしょうか。

 

P.S.

文章を書きながら自分の文章力のなさに絶望しています笑

何かわかりづらい事などがございましたら、コメント欄にてお知らせください。

 

2018/5/18追記

参考文献を書き忘れていたので、リファレンスを書いておきます

Luca, R. V., & Holborn, S. W. (1984). A comparison of relaxation training and competing response training to eliminate hair pulling and nail biting. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 15(1), 67-70.