記憶の整理

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【論文】HRTのメタ解析

前回の投稿で心理学的に爪を噛む癖を直す方法、という題でケーススタディを紹介したのですが、今回はその続きで2013年に発表されたメタ分析を紹介していきます。

この研究では18つの研究575人の参加者のデータを分析し、HRTの有効性について考察されています。前回の投稿では被験者が1人しかおらず、データの信憑性という観点からみると足りませんでしたが、具体性を無くした分、その点を補った研究になります。

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単刀直入に実験結果だけを書くと、HRTの有効性はかなり可能性としては高く(75-100%頻度が減る)、効果量もかなり高かった(d=0.8)ので、爪を噛む癖等の行動障害の治療法としてはかなり信頼度の高いものであると証明されたと思います。

 

そもそも本来のHRTは5つのパートで構成されています。

  1. Awareness Training
  2. Relaxation Training
  3. Competing Response Training (CRT)
  4. Motivation Procedure
  5. Generalization Training

Awareness Training の目的は自分の問題とする行動(e.g.爪を噛む癖)がどんな行動なのか、一日何回やるのか、どの程度の危険性を秘めているのか、行動の前にどういった兆候があるのか(e.g.爪が気になって仕方がなくなる)を分析します。

Relaxation Training はストレスと行動に相関関係があるという前提を基本に行われているので、瞑想等ストレスレベルを下げる治療をしつつ行動の変化を見ます。そのため、実験によっては扱われたり扱われてなかったりします。またLucaの研究でも効果には疑問が投げかけられているパートです。

CRTの目的は問題の行動を減らし、ほかの行動に置き換えていくという段階で、置き換える行動にはいくつかの条件があります。A)問題の行動と反対の行動ということ、B)数分間続けられること、C)その行動を筋肉の動きから感じられること、D)公共の場でもできること、E)日常生活に支障がないこと、そしてF)筋肉の動き的に問題となっている行動と相対すること、です。この段階はHRTの心臓部なのでしっかりとこれらの条件に沿って、しっかりと置き換えていきたいところです。

Motivation Procedure は名前から察せられるように、CRTで決めた行動の置き換えにモチベーションをもって行えるよう、保護者や被験者を説得したり、社会的なサポート(セラピストの派遣など)をしたり、進捗状況に応じて何らかの報酬を与える等を決めたりします。

最後のGeneralisation Training では、今までの段階、特にCRTで決めた行動で、しっかりと問題の行動を減らし、置き換えていく姿をイメージトレーニングします。(予兆を感じ、問題の行動をやめ、それをCRTで置き換えるを1セットにしてやります)

 

ただ、これらすべてを行うのは非常に時間がかかり、また場合によっては金銭的な負担も大きいため、多くの実験ではこの中でいくつかのものだけを扱っています(特にAwareness training、CRTそして社会的なサポートの組み合わせがほとんどでした)。ミルテンバーガー博士(1995)によると、Awareness TrainingとCRTがHRTの中でも必須な要素となっているようです。Awareness Trainingについては特にあえてやろうとしなくても、減らしたい行動、クセが分かってる人は大体わかると思います。(多少意識すると、キッカケなどを詳しくわかるようになると思います)。

また、置き換える行動をやるタイミングにも注意点があり、その行動を起こしたい、という気持ちないし欲望のようなものが必須になります。例えば、爪を噛む癖であれば、特に何も感じていないときに置き換える行動をするのではなく、爪を噛んでしまいそうになったタイミングでしないと意味がないようです。

また今回扱われた過去の実験のうち、17の実験で、ほかの治療法よりHRTのほうが効果が高い結果が出ていました。

 

しかしHRTにも問題があります。まず初めに、詳しい体系だった治療方法が明らかにされていないことがあります。上で挙げた5つのステージは提示されているのですが、1つのステージでどれくらいの時間を使うのか、何回やるのか、など定まった基準がありません。それ以外でも、このメタ分析の方法の問題、データの制限等もあるため、結果に関しても100%正しいとは言えない背景があります。

 

ただ、これらの問題点はメタ分析の論文ではつきもので、詳しい体系がないのも、いくつかのケーススタディ等を参考にすれば、問題は解決できそうです。また前回の投稿には無かった統計データという強い根拠があることからも、減らしたい行動の認識、そしてCRTをしっかりとすれば爪を噛む癖等を解決できる可能性は十分にあると十分結論付けられると思います。一度試してみてはいかがでしょうか。

 

 

Bate, Malouff, Thorsteinsson, & Bhullar. (2011). The efficacy of habit reversal therapy for tics, habit disorders, and stuttering: A meta-analytic review. Clinical Psychology Review, 31(5), 865-871.