記憶の整理

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他者の存在が与える行動への影響【1】ーバイスタンダー(傍観者)効果

人間の行動は非常に面白いことに、他者の存在に強く影響をうけます。
一人の時にできる事が人前ではできなくなったり、逆に他者の存在があるために自分が普段しないような行動をとることがあると思います。

 

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バイスタンダー効果(傍観者効果;Bystander effect)とは、他者(傍観者)の存在が、人の思いやりや手助けといった行動を抑制する現象のことを言います。

1964年にニューヨークで起こった殺人事件から着想を得て社会心理学者のBibb Latane とJohn Darleyによって提唱されました。

主に3つの理由からこの現象が起こっているといわれています。

 

 

 

殺人事件

1964年にニューヨークで起こったWinston Moseley による Kitty Genoveseの殺人事件*1 がきっかけとなり、バイスタンダー効果が研究されるようになりました。

ニューヨークタイムズ紙が報じた事件の経過に面白い事実があったためです。

一度目の襲撃は、被害者自宅の近くに車を止め、歩いて玄関に向かっていた時に行われました。犯人は被害者の背中を2度刺したものの、被害者が叫んで助けを求めたため、周りに住んでいた目撃者に見つかり、車で一度逃走しました。

しかし、その後、重傷で倒れている彼女を助ける人は現れず、十数分後、犯人は現場に戻ってきた後、彼女を殺害しました。

当日の夜、付近に住む40人程の人々が襲撃に気づいていたのにも関わらず、誰一人として彼女を助けようとした人はいませんでした。

周りの人が多ければ多いほど助けてもらえる可能性が上がる、という予想を覆したことが、Bibb Latane と John Darley の研究につながっていきました。

 

理由1:責任の分散(責任分散)

「まあ、自分がやらなくても誰かがやってくれるでしょ」、みたいな感じです。

一人でいると、何らかの「社会的」な責任を一人で負っているように感じますが、他の人がいると、その責任を共有するため、自分自身が動く動機が薄くなっているように感じるるため、というのが一つ目の理由です。

これを裏付ける実験は提唱者であるBibb Latane と John Darleyの二人によって行われました。*2

この実験で、学生がそれぞれ二人、四人、六人のグループに割り当てられ、一人一人、他のグループメンバーの行動を見られないよう仕切りで区切られたうえで、マイクを通して会話をしました。

会話の途中でそのうちの一人(仕掛け人)が発作を起こし、うめき声をあげ倒れたふりをしたところ、二人のグループ(学生と仕掛け人)では全ての学生が助けに入ったのにも関わらず、6人グループでは60%程度の学生のみが助けに入りました。(4人グループはその中間)

このことから、グループの人数が増えることで責任の分散が起こることが分かり、Kitty Genovese は人がたくさんいたために誰にも助けてもらえなかったことが分かりました。

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(縦軸は助けに入った学生の割合)

 

理由2:社会の影響(ウィキによると多元的無知というらしいです)

「他の人も何もやってないわけだし、別に大丈夫じゃないの」、みたいな感じです。

緊急事態というのは往々にして分かりにくいので、周りの人の反応を見て、自分がどう動くか決めよう、というのが2つ目の理由です。

ドッキリかリアルか、酔っ払いが寝てるのか発作で倒れているのか、といったことの区別は非常に難しい場合が多いためですね。

Latane と Darleyによって行われた実験*3で、参加者はそれぞれ、1人、他の参加者との3人のグループ、参加者と偽った俳優(何があっても反応しない)との3人のグループ、のいずれかに割り当てられ、部屋の中でアンケートに答えるように指示されました。

6分間の実験(部屋が煙でいっぱいになる)の中で、1人だと8割を超える確率で煙(異常)を報告しましたが、他の参加者とのグループだと4割以下(責任の分散による可能性が高い)、俳優とのグループの場合1割の人しか異常を報告しませんでした。

(この実験の面白いところは命の危険があったとしても行動を起こさない、という点にあります。同調ってのは怖いもんですね)

このように周りの人間が動かない場合、周りの人間に同調して、自分自信の行動も抑制されてしまいます。責任の分散と合わさることで、簡単に誰一人として助けに入らない状況が生み出されるわけです。

少し違いますが、動画があったので、どうぞ

 

理由3:観客抑制(評価懸念)

「下手に動くと馬鹿に見えるかもしれないから何もしないでおこう」、みたいな感じです。

人間誰しも馬鹿に見られたくないので、間違ったことをするくらいなら、何も行動を起こさないでおこう、というのが3つ目の理由です。

簡単にいうとドッキリで生まれるような笑いを避けたい、という欲求が人の行動を抑制する、という事です。

これと上二つを同時に検証する実験が、またしても Latane と Darleyによって行われました。*4

この実験では参加者が次の四つのコンディションに割り当てられ、実験者が電気ショックを受けているのを見て、助けに入るのかを調べました。

  • 一人(影響なし)
  • 他の参加者とペア、相手の事は見えない(責任分散)
  • 他の参加者とペア、相手の行動が見えるが、相手からは見られない(責任分散+多元的無知)
  • 他の参加者とペア、それぞれ視認できる(責任分散+多元的無知+評価懸念)

参加者の助けに入る割合は一番上のコンディションが最も高く、以下、徐々に低くなっていきました。

このことから、上記3つの理由が一定の影響をもって、人間の行動を抑制していることが分かりました。

 

どんな時にバイスタンダー効果が弱まるのか

とりあえず、少なくとも以下の4つの状況では、この効果が弱まる事が確認されています。

  1. 傍観者と知り合いの時
  2. 傍観者を知らなくても、後で会う機会があると考えている時
  3. 被害者を既知の間柄である
  4. 被害者が子供であり、公共の場で虐待を受けている

1と2は後で自分の行動を説明する機会があるため、評価懸念をする必要がなく、特に1の場合は相手の行動パターンを知っているため、多元的無知になりにくい、ことが理由だと考えられます。

3と4は被害者の属性についてですが、やはり身内はモラルサークルのほぼ真ん中なので、助けに入りやすいですし、困難な状態に陥っているかどうかは見知らぬ人より判断材料が多い分分かりますし、子供はある意味「特別」な存在ですから、助けに入るという方向に舵を取りやすいのではないのでしょうか。

 

以上がバイスタンダー効果の内容になります。

「都会の人が冷たい」っていうのも案外これが原因な気がしますね笑。都会の離婚率は田舎より高いなんて言いますし、人がたくさんいるってのはこういったマイナスの面も少なからず孕んでいるんでしょうね。

次回は社会的手抜きについて書いていきたいと思います。

まずは週一更新くらいできるようになりたいですね、、、

 

*1:Murder of Kitty Genovese - Wikipedia

*2:Darley, J. M., & Latane, B. (1968). Bystander intervention in emergencies: Diffusion of responsibility. Journal of Personality and Social Psychology, 8(4, Pt.1), 377-383.

*3:Latane, B., & Darley, J. M. (1968). Group inhibition of bystander intervention in emergencies. Journal of Personality and Social Psychology, 10(3), 215-221.

*4:Latané, B., & Darley, J. M. (1976). Help in a crisis: Bystander response to an emergency. Morristown, NJ: General Learning Press.